私の母は90歳になった。
いま、沼津で兄の家族と住んでいるが、私が行っても、私を息子だと思い出さなくなってきた。
昔から穏やかな人だったが、私が小学1,2年の時、友達の悪口を母に話したら、「他人の悪口を言うもんじゃない」とひどく叱られた。私は小さい時からそんな母にまとわりつき、台所が好きだった。その母が私に会っても、私のことを思い出さなくなったのはやはりつらい。
先日、恵那市中野方の直売所で買ってきた「絹さや(さやえんどう)」を料理していて、ふと母のやり方を守っている自分に気がついた。
さやの端を小さくちぎって背中のスジ繊維を取り除く……。少し大きめのさやだと、反対側の小さく曲がった先もちょっとちぎって、さやの縁のスジをとっていく。幼稚園の頃から母に教わったやり方だ。
台所の横の畳の上に新聞紙を広げて、母とふたりでお喋りしながらやったものだ。
改めて考えてみると、掃除の時のごみ取りの動かし方、洗濯の石鹸の付け方、手紙の開封の仕方……いろんなことが、小さい時に母から教わったままだ。
そんなことを思い出しながら絹さやのスジをとっていると、少しむきになってやっている自分自身に気がついた。
一生懸命とっていると、遠く離れた母が元気になって、私のことを想い出してくれるような気がして……。


